You are my hero!
都会恐怖症という病があった、少なくともオレには。騎空団のリーダーである青年に手を引かれながら、今日こそは一緒に街に行くのだと子どものワガママを振りかざされて断れなかった。
「ウェルダー? そんなにぐったりしてないで元気を出してよ」
「誰のせいで元気がないって思ってるんだ? なあシング」
もしかして俺のせいかなってケラケラ笑われた。そうとも、全部お前のせいだ。でもきっとお前を好きになったオレのせいでもある、惚れた弱みとかってこういうことを自覚する。
大きな市場に売られているリンゴを掴んだかと思えば、軽々しくそいつを投げてくる団長様に力無く笑った。わかってやってんのかなこいつ、重厚そうな鎧に身を包んでいるオレ達のフォートレスだ。
大盾で仲間を守る、回避に徹底して反撃を繰り返すオレとは正反対のスタイルを持っている。自らのスタイルを恥じてる訳じゃないんだけども、こいつのそういう無骨なところもかっこいいって思わされてしまうのだ。
友を目覚めさせるべく旅立ったとき、純粋にオレの実力を認めて差し出してくれたその手を掴んだときからきっと惹かれていたんだろう。都会は慣れないけれども、こいつといると幾分か楽なような気がする。本当に気持ちの問題なんだろうけども。
「早く戻ろう。どうかしそうだ、うう……」
「仕方ないなあ」
同性にこういう感情を抱くことに抵抗があるような、けれどもシングの笑顔はどこまでも透き通っていた。自由を愛する騎空団の主だからなのか。がやがやと騒がしい雑踏を抜けて、グランサイファーへの岐路を辿る。途中にある森でやっと一安心といったところだ。
「無理を言ってごめんね。でも俺、ウェルダーとも街に行きたかったから」
「買い出しなら別にカタリナやルリアとも来られるのに、どうしてオレなんだ?」
切り株に腰掛けて、大きな荷物は地に落とす。森の動物が集まってきた、鳥とかリスとかとにかくいろいろ。ジャスミンほどじゃないけどオレも動物には好かれる方だ、なにせオレはフォレストレンジャーのウェルダー様なんだからな!
「いいなあ、ウェルダーは動物からいっぱい好かれて」
「まあなんだって好かれた方がいいだろうけども、何がそんな羨ましいんだ?」
「んーなんとなく、こう囲まれてると温かいからさ。俺、親父がいなくなってからビィと二人きりだったし……」
だからウェルダー達と会えてすごく嬉しいんだよね、そうなにとなく打ち明けられる。オレもジェイドと二人だけだったから、その寂しさは少しだけ理解できるような気がした。
「なんか兄貴ができたみたいで嬉しかったんだよね」
「オレがシングの兄貴か」
「嫌かな?」
そう問われて首を大きく横に振る、頼られることは嫌じゃない。それがお前ならむしろ大歓迎だ、そう言いながら目線を逸らす。そうか、こいつにはオレが兄貴みたいに思えるのか。だったら尚更、この気持ちは打ち明けられないだろう。
「ウェルダー?」
「そろそろ帰るか。遅くなったら魔物も出てくる、夜の森は危険だぞ?」
そう告げて立ち上がろうとしたけれども、シングは一向に立ち上がる気配がない。どうしたんだ? 具合でも悪いのかと聞いても、違うよそうじゃないよと言われるばかりだ。
森がざわざわと揺れる、時期に日も落ちてくるというのに。駄々をこねる子どもみたいなやつだ、普段は控え目なのにどうしたんだろう。そう心配になっていれば、言いにくそうに口をもごもごさせている。
「危なくなってもウェルダーが守ってくれるだろ? ウェルダーはさ、俺にとってのヒーローだから!」
「オレが?」
「そうだよ、かっこよくて強い。俺の憧れだよ」
だってウェルダーはフォレストレンジャーだもんな、そう恥ずかしそうに笑いながらシングが言う。大きな盾に守られているのに、それでもオレに守ってほしいと言うなんてなんだか、ものすごく照れる。
「そうとも! オレはフォレストレンジャーのウェルダー様だからな!」
「そうそう、そのポーズやっぱりかっこいいよね。出会った時とキミは変わらないね、ウェルダー」
そう笑うシングの顔に安堵しながら、想いなんて告げなくてもこうやって側にいて頼ってくれるだけでオレは幸せだなんて思っている。ああ、惚れた弱みって本当に怖いもんだな。空が茜色に染まっていく、魔物が出ようとどんな危機がやってきてもオレはお前のヒーローでいたい。
「ウェルダー、あのね」
「なんだ?」
「俺さ、実はウェルダーのことが」
そうシングが言いかけたとき、茂みが大きく揺れて何かが飛び出した。ゴブリンの群れである、さっそくお出ましかと武器を構えた。シングも大きな盾を構え、臨戦態勢を見せつけた。数は多くもなく少なくもなく、二人でこの人数は少しキツそうか。
「悪い! その言葉の続きはまた今度にでも」
「……あ、うん。わかったよ」
今度はちゃんと言うから、また一緒に街へ行こうね。そう笑ったシングの横顔がとても綺麗だったのは、西から指してくる茜色のせいだったのだろうか。夕日を背に向けて、お前の前でかっこつけたいヒーローが飛ぶ。